相続土地国庫帰属制度とは
身近な方がお亡くなりになり、相続で土地が手に入ったものの、管理や維持に困る場合があります。これまでは、相続財産に不要な土地があっても、その土地だけを放棄することはできず、その土地を含めて全てを相続するか、または他の資産も含めて全てを相続放棄するしか方法がありませんでした。
しかし、様々な事情で土地を手放したいと考える方が増加傾向にあり、これらが相続したけど登記はしていないまま放置される「所有者不明土地」問題につながっている要因の一つと言われています。
そこで、一定の要件を満たした場合、希望した人が相続した土地を国庫に帰属させることができる法律と制度が2023年4月27日に施行されました。このことを「相続土地国庫帰属制度」と呼びます。
制度成立の目的
もともと民法には以下のとおり規定されています。
所有権のない不動産は、国庫に帰属する
民法第239条第2項
しかし、具体的な土地の権利の放棄については、それができるかできないかもわからないような状況が続いていました。そのため、実際に土地の所有権を放棄し、国に引き取ってもらうには新たに制度を設ける必要がありました。
また、土地を所有することとなると、固定資産税や維持管理費がかかります。使い道のない土地のために毎年税金等を払い続けるのは金銭的にも精神的にも大きな負担になります。
このような相続による所有者不明土地の発生を防ぐため、一定の要件を満たした場合に限定して、相続した土地の所有権を放棄し、国に引き取ってもらう制度ができたのです。それが「相続土地国庫帰属制度」です。
どのように申請すればいい?
希望者が承認申請を行い、法務局による審査を受けて通過すれば、相続した土地の所有権と管理責任を国に引き取ってもらえるようになります。詳細は以下のとおりです。
1.前提条件
先述したとおり、相続等により土地の所有権の全部または一部を取得した者は、法務大臣に対し、当該土地の所有権を国庫に帰属させることについての承認を申請することができる、と規定されています(相続土地国庫帰属法第2条第1項)。
なお、土地を数人の共有で相続した場合は、承認の申請は共有者全員が共同して行う必要があります。
2.承認申請ができない土地があります
せっかくの相続土地国庫帰属制度ですが、たとえば以下の種類の土地については申請ができないこととされていますので注意が必要です(相続土地国庫帰属法第2条第3項)。
- 建物がある土地
- 抵当権などの担保権や、地役権などの使用・収益を目的とする権利が設定されている土地
- 通路など、他人による使用が予定される土地として政令で定められるものが含まれる土地
- 土壌汚染対策法第2条第1項に規定する特定有害物質により汚染された土地
- 境界があきらかでない土地や所有権について争いがある土地
3.承認申請書の提出と手数料の納付
相続土地国庫帰属法第3条第1項には、承認申請をする者は、①承認申請者の氏名または名称及び住所②承認申請に係る土地の所在、地番、地目及び地積を記載した承認書と添付書類を法務大臣に提出することとされています。
それに合わせ、承認申請に対する審査に要する実費の一切として「手数料」を支払う必要があります。また、承認が得られた後にも「負担金」を支払いますが、この「負担金」とは異なりますので注意が必要です。
この「手数料」は事実の調査に要する費用も含まれるため、実地調査として測量等が行われる場合には高額になる場合もあるようです。
4.法務局による審査
申請書類が法務局に受理されると、書類審査ののちに担当職員による事実の調査が行われます。このとき、承認申請者そのほかの関係者からも事実の聴取や資料の提出を求められることがありますので、対応する必要があります。
5.法務大臣による承認
法務大臣は、承認申請した土地が次に掲げる事項のいずれにも該当しないと認める場合には、その土地の所有権の国庫への帰属についての承認をしなければならない、とされています(相続土地国庫帰属法第5条第1項)。
①崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
②土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
③除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
④隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの
⑤上記①から④に掲げる土地のほか、通常の管理又は処分をするに当たり、過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの
以上のことから、崖がある土地や、地上や地下に何かが存在する土地の場合、承認されない可能性があるため、注意が必要です。
6.負担金を納付します
申請が承認された場合、国庫に帰属させる土地の管理に必要となる10年分の標準的な費用の額を納付する必要があります(相続土地国庫帰属法第10条第1項)。これを「負担金」といいます。
負担金については、承認の通知があった際にこの負担金の額も併せて通知されることとされています(相続土地国庫帰属法第10条第2項)。
負担金の納付期限は、負担金の額の通知を受けた日から30日以内とされており、負担金を納付しないときは、承認の効力が失われるものとされています(相続土地国庫帰属法第10条第3項)。
この負担金を納付した時に、当該土地の所有権が国に帰属されることとなります(相続土地国庫帰属法第11条第1項)。
相続土地国庫帰属制度はこんな方にお勧めです
- 使い道がないが、管理にコストのかかる土地を相続された方
- 農地や山林、原野などを相続された方
- 何十年も前に相続した土地を利用しておらず、固定資産税を払い続けている方
農地は売買に様々な制限があり、買い手が付きにくいのが現状です。農地を売る際には基本的に農家に売る必要があります。また農業委員会の許可が必要です。山林や原野も今般増加する災害のリスクもあり、同様に買い手がつきにくいです。
ご自身のお子さんやお孫さんに迷惑をかけないため、使い道がなく、買い手のつかない土地をきちんと整理することを希望される方にはメリットの多い制度と考えられます。
相続土地国庫帰属制度の欠点
1.費用負担がある
通常土地を売った場合は多少なりともその土地の価値にある金銭を受け取ることができますが、国庫に帰属させる場合は逆に手数料や負担金を支払う必要があります。また、要件を満たすために別途費用が発生することもあります。
2.国庫帰属までに時間がかかる
申請から国庫帰属の承認が得られるまでに法務局による事実調査や要件を満たすための是正や工事を行う必要があるため、ある程度の時間がかかることが予想されています。
3.申請できる土地に制限がある
先述したとおり、下記の土地は国庫に帰属させることはできません。
- 建物がある土地
- 担保権等が設定されている土地
- 通路など、他人による使用が予定される土地として政令で定められるものが含まれる土地
- 土壌汚染対策法第2条第1項に規定する特定有害物質により汚染された土地
- 境界があきらかでない土地や所有権について争いがある土地
また、崖のある土地や地上、地下に有体物が存在する場合なども、承認されない場合があります。
まとめ
相続土地国庫帰属制度により、一定の条件をもとに相続によって取得した土地を国に引き取ってもらえることが可能となりました。
本制度の利用をご検討される際には、お気軽に当事務所にご相談ください。